希望を叶える中央区 マンション
政府に経営の首根っこをつかまれるより、貸し出しを落とすことでBIS基準を満たした方がはるかにラクだと、銀行の経営者たちは考えたのである。
また、当時はT中平蔵氏を始め、評論家や銀行アナリストの大半は公的資金の投入に反対であった。
日本の銀行はそもそも貸し過ぎで、資本を無駄遣いしているのだから、早く貸し出しを減らしてかリーン&ミーンHに、つまり賛肉を落としてスリムになるべきだというのがその理由であった。
それでも資本投入をするのであれば、不良債権の処理を含め、さまざまな条件を付けるべきだ、という論調であった。
これらの指摘はミクロ、つまり個別行の経営という観点から見れば決して間違っていなかった。
それに対して私は、最初にテレビで「公的資金で資本を投入すべきだ」と言い始めた時から絶して、貸し渋りを続けるに決まっているからである。
私の努力にもかかわらず、日本で資本投入の法案が通った時(1998年2月)、本内閣は佐々波委員会(佐々波楊子K大教授を委員長とする金融危機管理審査委員会)をつくって、銀行を一行ずつH人民裁判にかける予定だった。
つまり銀行の頭取たちを佐々波委員会の前に引っ張り出し、銀行経営の問題点を洗い出して、その挙旬、「条件を呑むなら資本投入をする」とやろうとしたのである。
当然のことながら一行も資本投入の申請を出さなかった。
私が当初から「絶対に条件を付けてはダメだ」と主張していたのは、公的資金の投入は銀行を救うために行うのではなく、貸し渋りから国民経済を救うためであり、実効を第一に考えるべきだと思ったからだ。
戦後一回も銀行危機に直面したことのない多くの論者たちは、貸し渋りの恐ろしさも銀行叩きは実は中小企業叩きであるということにもまったく気づいていなかった。
そもそも大手企業は銀行など必要とはしない。
大企業は、市場を通じて資金調達できるからだ。
真に銀行を必要としているのは中小企業なのである。
その時、マスコミや政府が銀行を叩くと、結局、中小企業が融資してもらえなくなってしまう。
資本投入が可決された当初は多くの条件が付いていたので、ただの一行も申請してこなかった。
そこで、当時自民党の幹事長だったK藤紘一氏が「あなたの言ったとおりになってしまった」と言って、私に相談をもちかけてきた。
そこで私は条件を外す必要性と1931年のアメリカの例を挙げてK藤氏に説明したのである。
に一行も申請してこなかった。
銀行側は「申請した銀行は危険な銀行だ」と思われるのを懸念したのである。
困ったルーズベルト大統領はJPモルガンに電話をした。
当時のアメリカでいちばん格付けの高い銀行であるJPモルガンが受け入れれば他の銀行もE心して資本投入を受け入れるだろうから、「資本投入に応じてくれないか」と頼んだのである。
私は加藤紘一氏にその故事を説明し、当時いちばん格付けが高かった東京3菱銀行に資本投入を受けてもらうよう奨めたのである。
それで政府は資本投入をまったく必要としていない同行に多大な圧力をかけ、10OO億円の投入を受け入れてもらった。
それを皮切りに、他の銀行も1000億円の資本投入を受けることになって、トータルで1・8兆円の公的資金が銀行に入ったのである。
もっともあの時、政府は問題の解決に必要な22兆円を準備していたが、結局は1・8兆円しか銀行に受け取ってもらえなかった。
この一事をとっても、資本投入の難しさはわかろうというものである。
1・8兆円の資本投入で貸し渋りの悪化は止まった。
今回のアメリカも、かつての日本のように資本投入せざるを得ないところまできている。
アメリカでも当時の日本と同様、最初は、「資本投入するに当たっては条件を付けろ」という声が上がるはずである。
条件を付けると、どの金融機関も受け入れにこない。
そこで条件をカットして受け入れてもらう、というプロセスをたどるのではないか。
ではダメだ。
貸し手救済も考えなければいけない」という発言が飛び出した。
「金融機関が保有しているサブプライム関連の証券を政府が買い取ったらどうか」という提案である。
これはサブプライムで借りた人たちだけでなく、貸した人たちも救済しないとアメリカ経済は正常化しないということを最初に言い出した意味では評価できる発言だが、この種の政府の買い取り案というのは政府による資産の価格維持(PKO)であり、多くの問題がある。
日本を含めてバブル崩壊後の政府によるPKOが成功した事例はほとんどないし、特に今回の件では、どのような価格で政府が購入するのかが大問題になっている。
市場が消滅すると価格が限りなくゼロになってしまう「時価会計」の大欠陥というのも、今回のサブプライム問題では、これまで誰も経験したことのない新しい問題が一つ浮かび上がってきた。
それは、これらの証券の市場が買い手不在のため消滅してしまい、時価評価がまったく不可能になったという問題である。
これまでアメリカは、時価評価は市場の変動を反映するから正しいし、良いことだと主張してきた。
ヨーロッパや日本は、以前はどちらかというと原価主義(簿価主義)を採り、時価評価とは距離を置く傾向が強かったが、アメリカは好況が続いていたせいもあって、国際的な会計制度の中心に時価評価を据えるべきだ、と強く主張してきた。
実際、景気がいい時は時価評価であればますます拡大均衡に向かうことになるので、たいへん都合がよかったのである。
今回はその時価会計が完全に逆目に出てしまった。
というのは、サブプライム関連を含む多くの仕組み債市場が買い手不在のため消滅してしまい、時価評価すべき価格がなくなってしまったからである。
誰一人買う人がいないなかで、みんなが証券を売ろうとすると本当にタダのような値段になってしまう。
通常であれば、値段が下がるといっても、100ドルのものが30ドルとか、もたら20ドルになるかもしれないが、価格がなくなることはなかった。
今回は買い手不在のため本当に価格がなくなってしまうという事態が発生したのである。
アメリカでは、会計の専門家を集めて議論しているところだが、問題はすでにアメリカだけに限らず、全世界共通のものとなっている。
時価会計は、ある意味で短期保有を前提にしている。
長期保有で、最終的に債券が10Oで戻ってくるとすれば、いま直ちに市場評価をする必要はないからだ。
その一方で、短期保有で利益をあげようとすれば価格変動のある債券だから市場評価の必要性が出てくる。
日本でも以前は長期保有を前提としたポートフォリオに入れる債券とトレーディング勘定に入れる債券を分けていた。
トレーディング勘定に入れている方は、それが国債でももちろん時価評価だったが、長期保有が前提の債券はもう少し緩やかな評価法を採っていた。
もちろんそうしたからと言って消滅した時価の問題が解決するわけではないが、長期保有の場合はその金融商品の劣後度や住宅ローンのデフォルト状態から逆算して、ある程度の「理論価値」を出せるかも知れない。
とにかく、マーケットがなくなってしまうということなど、これまではまったく想定されていなかったわけであるが、今回の金融危機はそういうことも起き得るということを証明してくれたのである。
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